拡大する“新販路”に対応する法整備を(シリーズ後編)

 フリマアプリにおける医薬品売買を象徴として、現行法には医療用・一般用問わず医薬品の個人間取引に関する穴が存在する。

 特に医薬品の個人輸入において、患者自ら行うことが認められているのは日本と一部の国のみで、いわゆる先進国と呼ばれている多くでは、医療従事者に限定するなどの制限が設けられている。

 こうした現状とフリマアプリなどによる医薬品の個人間取引が結びつく怖さは想像に容易い。

 最も医療関係者が警戒すべき状況は、残薬などが出品されることで、最悪の場合は医療関係者が誰も知らない医薬品を患者が所持している可能性があることだ。

 かかりつけ医療関係者による医薬品の一元的管理・把握が求められるなか、理想像とは真逆の現状が制度に穴を開けかねない状況を呈している。

前編記事

 

個人間取引が残薬問題にも影響の可能性

 

 医薬品の個人間取引の最大の欠点は、個人輸入に対する法制度の不十分さが端的に表している。日本中毒学会総会でこの危険性について発表した北海道薬科大の岸本桂子准教授は、「制度が悪用されている」と強調し、フリマアプリへの拡散している現状などから、法整備の見直しなどが必要であると訴える。


 薬機法では、第24条に「許可を受けた者でないと、業として医薬品の販売を行ってはならない」と規定されているが、業を取得していない個人による医薬品の輸入は、規定の数量であれば差し支えないとされている。

 この解釈について岸本准教授が関税局に問い合わせたところ「医薬品の個人輸入に関しては、特例的な取扱いとして、輸入する医薬品等を個人が自ら使用すること、医師等が自己の患者の治療のために使用することが明らかである場合で、規定の数量以内で、そのことを税関が確認できる場合に限り、薬監証明の交付を受けることができる」との説明を受けたという。


 つまり、個人が自ら使用することであれば、法令に違反することなく、医薬品の売買が可能であるのだ(重大な健康被害が起こる医薬品や麻薬・劇薬などのケースを除く)。

 一見、法令の穴のように見えるが、厚労省のホームページには「一般の個人が医薬品の輸入を可能としているのは海外で受けた薬物療法・治療の継続が必要なことや、海外からの旅行者が常備薬として携行する場合への配慮」として記載されている。言うなれば、医療上への配慮として設定した条件が、都合よく利用されている格好だ。

 

 インターネット上で広くみられる医療用医薬品の販売サイトは、『個人が業者にお金を払って発注し、代行業者が海外の業者に発注して、その海外業者から個人に直接届けるというのは、違反とはならない個人輸入と判断されることになる』仕組みを利用したものが多く、広告の規制以外の明確な取り締まり手段はない。要するに個人輸入の範疇であれば、誰でも医療用医薬品を買うことが可能なのが日本の実態だ。

 

 厚労省はオンラインビジネスの「正当性、合法性、信頼性」についての情報提供を行うレジットスクリプト社と契約し、インターネット上での違法な医薬品販売サイトの監視などを実施しているものの\“イタチごっこ”であるのは言うまでもない。
 諸外国との比較においても国内の法整備には不備が多く、岸本准教授は「インターネット上で医療用医薬品の売買が可能な米国でさえ、医薬品等の輸入に関しては、医療関係者や製薬企業に限定されている。日本では患者自らの意思で申請できる。さらに供給プロセスにおいても医療関係者が関与することはなく、謎めいた仕組み」と強烈な皮肉を込める。

 

 一般用医薬品の大半がインターネット上で購入できるようになった影響で、生活者も医薬品をネットで購入することには抵抗感がなくなっている。同准教授は、2009年の一般用医薬品のインターネット販売議論の際から、継続的に実施しているネット購入者の追跡調査で、インターネットの個人輸入を介して医薬品を購入したことのある経験者は全体の約4%との傾向を提示する。
 「購入品目は性機能改善薬や肥満・ダイエット関連の購入が目立っていたが、ネットで一般用医薬品を購入したことのある人は医療用医薬品も購入する関連性は強く示されており、今後も4%程度に留まるとは言えないのが実態ではないか」との分析を寄せ、ユーザーの急増も視野に入れる事態を想定する。

 

 リアル店舗では処方箋がなくては手に入れることができない医療用医薬品が、インターネット上では購入することが可能な現状。自らの使用が法令としての前提であるが、余った薬が発生する可能性も否定できない。そうした医薬品がフリマアプリなどに出品されることは想像に容易い。
 インターネット上で医薬品を購入したことがなくても、家族の残薬を安易な気持ちでフリマアプリに出品したり、自らの薬を転売したりすることは十分に想定される。オークション形式の料金体系と違い、フリマ形式であれば金額は自ら決定できるため、出品する側としても心理的抵抗感は少ない。
 一方、既にメルカリは出品に際して、禁止ワードを設定しており、医薬品などでも「商品名」「薬品名」「成分名」など、複数のキーワード設定しており、「医薬品関連だけでも数百ワードに達する」としており、これら文言が含まれる商品が出品された際には、全件目視で監視・削除の対応を取っている。
 実際にフリマアプリを検索してみても、一目で医薬品と判断できるようなことは稀だ。ただ、健康や美容といった項目である程度検索を進めると、医薬品と思われる製品に遭遇することもある。
 なにより、こうしたグレーな現状であるにも関わらず、国民の多くが取引可能なことが最大な課題だ。

 

最悪の事態は医療関係者が誰も知らない服用のケース

 

 個人輸入をはじめ、フリマアプリで購入した医薬品については、副作用被害が生じても「自己責任」(厚労省)との考えにある。この姿勢こそが最も危険性が高いと岸本准教授は指摘する。「そもそも個人という前提での医薬品売買は禁止されている訳でもなく、法令が未整備な状態を自己責任とするのは問題がある」と訴え、患者自らが医薬品を購入できる現状には違和感を禁じ得ないと続ける。


 さまざまな手段で生活者自らが医薬品を購入できる状況は、複雑なケースが生じることもあり得るだろう。

 例えば処方箋調剤を受けていた患者が、個人輸入で医薬品を購入した場合、仮に副作用が生じた際は誰が、どのような対応となり、制度上の救済はあるのか。

 また一元的管理の範疇には個人で購入した医療用医薬品も含まれるのかなど、いずれも現在では稀であるが、インターネットで医薬品を購入した経験のある生活者が増加することを想定すると、法令の見直しが求められるのは間違いない状況と言えそうだ。

 

薬局新聞 2017年7月26日付