世界的イベントに向けスポーツファーマシストの認知向上を

 先ごろ“薬局が行うソーシャルヘルスケア”をテーマに第19回日本地域薬局薬学会が都内で開催され、その中の『スポーツとくすり』と題したシンポジウムでは、アスリートを支えるスポーツファーマシストの役割や地域での取組みなどに関する講演が行われた。

 4年後にはラグビーのワールドカップ、そして5年後にはオリンピック/パラリンピックと、国内で開催される世界的なスポーツのビッグイベントに向けて国民の関心・興奮がますます高まっていく中で、薬剤師の活躍の場の広がりにも一層の期待が寄せられる。


ドーピング防止に薬剤師の役割大きく


 スポーツファーマシストに対して最も強く求められる役割は、やはりドーピングの防止だろう。スポーツファーマシストの役割とその活動について講演したファーコスひかり薬局の對崎利香子氏は、毎年数件程度のドーピング違反事例が報告されている実態を説明。

 「そのほとんどが禁止物質と知らずに、またはあまり気にせずに薬を使用することによる“うっかりドーピング”」であると話し、だからこそ薬の専門家である薬剤師の役割は大きいと強調する。


 ドーピング違反となる禁止物質のリストは毎年更新されるため、常に情報収集を行っておくことが重要となるほか、医療用薬だけでなくOTC薬やサプリメントの中にも禁止物質は存在しており、「特に同じブランドでドーピングになるものとそうでないものがあるため注意が必要」と對崎氏は指摘する。


 「例えば『ストナアイビー』は違反にならないが、『ストナアイビージェル』には禁止物質のメチルエフェドリンが配合されている。また『パブロン鼻炎カプセルZ』は大丈夫だが『パブロン鼻炎カプセルS』はプソイドエフェドリンが含有されているため違反となる」など、一般の生活者では注意していても見逃してしまいそうなものも多く、さらに製品リニューアルによって配合成分が変更するケースもあるという。

 對崎氏は実際に選手や保護者、コーチなどから寄せられた相談事例もいくつか紹介し、アンチ・ドーピングに対する専門家によるサポートの必要性を強調した。


 もちろんスポーツファーマシストの役割はドーピング防止だけではない。

 「アスリート自身がアンチ・ドーピングの意識を持つことは非常に重要なことであり、それを無駄にしないためにもスポーツファーマシストが他のチームスタッフと連携してサポートしていくことが必要。禁止物質の判断だけでなく、選手本来の力を競技中に発揮できるようアドバイスすることも重要な役割」と對崎氏は語り、選手がベストコンディションで臨める薬の提案やアスリートの健康を守ること、そしてそうしたことによってスポーツの価値を守ることもスポーツファーマシストの役割と説明した。


他職種との連携で活動広げ


 岩手県釜石市に構える中田薬局の中田義仁氏は、2016年に岩手県で開催される「希望郷いわて国体」に向けた岩手県薬剤師会の活動、そしてスポーツファーマシストとしての地域活動を紹介した。

 岩手県薬での活動としては、県と連携して選手や指導者への啓発活動や研修会、また『ドーピング・ホットライン』といったシステム構築などを実施したほか、学校薬剤師の活動として薬物乱用防止や薬教育に絡めて中学・高校でアンチ・ドーピング教室や啓発ポスターコンクールなどの取組みも行ったと話す。


 そうした活動の中で、中田氏は釜石地区で何かできないかといったことを模索し、地域でのスポーツファーマシストとして取り組みを積極的に行っていったという。

 具体的には、地元のラグビーチームである釜石シーウェイブスRFCにスポーツファーマシストとして参加し、アンチ・ドーピングに関する講座を毎年度実施しているほか、チームのトレーナーやかかりつけ医と連携して、うっかりドーピングの防止にも努めているという。

 また釜石地区の医師会や歯科医師会と連携して研修会を行っているほか、地元の釜石高校では栄養士と協同で「アンチ・ドーピング&栄養学講座」を行うなど、積極的に他職種と連携を図ることでスポーツファーマシストの認知向上とともに活躍の場を作っている。


 取組みを進める中で、中田氏は「アンチ・ドーピングの啓発活動においては、行政や医師会、体育協会、学校、スポーツチーム等の理解と連携が必須であることが分かった」と話し、まずはスポーツファーマシストの存在や活動を理解・認知してもらう事が重要と説明。

 さらに「スポーツチームに薬剤師が関わることでアンチ・ドーピングの啓発だけでなく、薬の適正使用やアスリートへの薬物治療にも貢献できるのでは」と語り、幅広い職能発揮にも手応えを感じているようだ。


選手やスタッフにとって心強い存在に


 両氏の講演からもスポーツファーマシストの活動が徐々に広まってきていることは窺えるものの、やはり一般的な認知度はまだまだ低いのが現状のようだ。

 同じくシンポジウムで講演した東芝ラグビー部スポーツトレーナーの川端昭彦氏は「今日までスポーツファーマシストの存在を知らなかった」と述べており、実際に同チームでは選手の栄養管理やトレーニング指導とともに、アンチ・ドーピングへの取り組みも川端氏が担当しているという。

 ただ、薬剤師のような薬の専門家がチームに関与することは選手やスタッフにとって心強い存在になることを強調しており、今後はより積極的に働きかけていき、スポーツファーマシストの認知向上を図っていくことが重要との認識を示した。


 2019年のラグビーワールドカップや2020年の東京五輪などは、スポーツファーマシストの存在を示す絶好の機会であることは間違いない。アスリートのみならず一般の生活者にとっても身近な存在となるためにも、今後の積極的な取組みによる認知向上に期待したい。


薬局新聞 2015年6月17日付