【対談】「松井秀夫のヘルスケア産業新世紀訪談」 ゲスト:世耕弘成・参議院議員/内閣官房副長官

 少子高齢化で医療・保健・介護を中心とした社会保障体制の見直しが待ったなしの情勢を迎え、地域における薬局・薬剤師、ヘルスケア関連産業の機能や役割に対する期待が急速に高まっている。
 この機運を適切にとらえ、将来を手繰り寄せる意図から2015年、大衆薬卸協議会会長/大木会長兼社長の松井秀夫氏をホスト役に、各方面の要人から業界の行方に関わる様々なテーマを掘り下げる対談企画をスタートする。

 今回は、安倍内閣の政策を支える立場でセルフメディケーション推進を明記した画期的な日本再興戦略に関わる内閣官房副大臣・世耕弘成参議院議員を首相官邸に訪ねた。近畿大学のベンチャービジネスを通じて業界とも少なからず接点を持ち、また今年スタートする食品の機能性表示新制度にも強い意欲を示す世耕議員の姿勢は非常に頼もしい。

 

【対談】
 松井秀夫(日本医薬品卸業連合会大衆薬卸協議会会長/大木会長兼社長)
 世耕弘成(参議院議員/内閣官房副長官)

 

●鍵を握る食品の機能性表示制度への期待

世耕議員(左)と松井会長
世耕議員(左)と松井会長


 世耕議員――
大木さんにはア・ファーマ近大が大変お世話になっています。さて、今日は「ざっくばらんに」ということで気軽にお話して良いでしょうか?どうしても官房副長官という立場から、具体的政策のような話題になってくるとお話しづらくなりますので(笑)

 

松井会長――
 もちろん、今回は人となりやお考えをお気軽に拝聴できれば幸いです。当社にとって世耕先生は近畿大学との関係で馴染みが深いわけですが、もっと薬業界に世耕先生の活動も知っていただきたいと思い、ご無理をお願いしたわけです。
 まず、現政権に感謝しているのは今後の社会に重要と長年にわたって指摘されてきながら、なかなか具体的に進むことがなかったセルフメディケーションについて、「日本再興戦略」において明確に国の政策として明記されたことです。ここまでの展開は初めてかと思います。
 業界が常々、訴えてきた生活習慣病などのセルフチェック体制の推進や、食品の機能性表示を緩和するといった方向性が示され、いよいよ実際に動き出しつつあります。

 

世耕――
 今おっしゃられた事項は規制改革と成長戦略という2つの文脈においてさせていただきました。特に食品の機能性表示の緩和については、最終的には農業などにも関わっていく重要な政策になると考えています。従来のトクホではどうしても要求される水準が資金の豊富な大手企業レベルでしか対応できない、という問題があり、何とか地域の中小企業もチャレンジできるような方向を探りたいと。
 例えば私個人の過去の活動においても「ブルーヘスペロンキンダイ」での経験があります。ブルーヘスペロンは、青ミカンには抗アレルギー作用があるという近大薬学部の研究から可能性がスタートしているものですが、ミカンという素材自体は身近な果物であっても、やはりそこは薬事法の観点から厳しく見られざるを得ず、当然ながら効能などは謳えないわけです。
 そうした実体験からも規制を緩和できないものか、とずっと考え続けておりまして、安倍内閣の成長戦略、規制改革の1つの大きな目玉として現実化したいと今まさに取組んでいる最中で、今年の出来るだけ早い時期に新しい制度としてスタートさせるべく準備を進めています。

 

「適切な制度を目指さなければならないと強く感じる」


松井――
 食品の機能性、可能性を広げるというお話について世耕先生は、昨年2月のア・ファーマ近大10周年パーティの時、まだ形がない段階から実現に意欲を示しておられましたので、非常に楽しみにしていました。その後、本当にスピーディな展開で業界としては非常に有り難い限りです。
 消費者庁による「取りまとめ」までに8回の検討会が行われましたが、そこに至るまでに我々としては「部位を用いた表現」を筆頭とした論点があり、(新制度の運用ガイドラインが示されていない)現在も一体どこまでの機能性表示がどのように可能なのか、非常に強い関心を持って注目しています。
 例えばブルーヘスペロンキンダイはエスペリジンとナリルジンなどの複合素材になりますが、エスペリジンだけなら論文はあっても、青ミカンという複合的な素材全体に関する学術論文はなかなか存在せず、企業レベルで最初から作り出さなければならないことから非常に難しい。ミカンならミカンということで立証できれば良いですが、これがなかなか困難な作業となりそうです。

 

世耕――
 私個人としても安心安全への配慮は当然ですが、一方で使い勝手の良い制度にしなければならないと考え、見守っているところです。詳細な部分に関しては間もなくガイドラインの策定を経て、改めてパブリックコメントを取ることになると思われますので、是非とも薬業界からも積極的に意見を頂戴できれば幸いです。
 今のような現場の方々からの意見に耳を傾けながら、制度として実効性があり、食品の機能を広げる上で使い勝手の良いものにしたいと思います。ただ、一方では消費者に誤解を与えるようなことになっては駄目ですし、当然ながら消費者庁はそこを非常に気にしているわけです。
 その辺りのバランスを取りながら、適切な制度を目指さなければならないと強く感じますね。


OTC薬活性化も重要な政策に


世耕――
 あと、セルフメディケーションという意味では、今後OTC薬が非常に重要な位置付けを担うと改めて考えています。私自身もあまり医者にかかるようなことはなく、どちらかというと早めに自分で市販のOTC薬を飲んで対処するタイプなので、セルフメディケーションにOTC薬は非常に役立つものであるとの認識にあります。
 そうして生活者がOTC薬を積極的に活用することで、高齢者社会を背景に増大の一途にある医療費を抑えるような効果にも繋がれば理想です。
 どうしても病院にかからざるを得なくなり、高額の医療費を発生させる状況になるまでに、先ほど話題にあがったような健康に有意義な食品が持つ機能を身近な生活で活用するといったことから、なるべく国民1人ひとりが自分の健康を自分で守る努力をするというセルフメディケーションは大切です。
 逆に今は「少し風邪気味かな」といった程度で受診してしまいがちですが、体の不調を感じれば早めにOTC薬を飲んでみるなどして自分で対応し、以降については地域のかかりつけの医師、もっと重くなれば大きな病院を受診するといった習慣を社会全体に根付かせていかなければなりません。

 

松井――
 そうですよね。医療へのイージーアクセスは日本の医療制度の最も良いところではありますが、見方を変えればあまり必要がないような人なども安易にアクセスしてしまう状況となっており、医療費の増大による社会保障の圧迫をはじめ、その弊害が様々な方面で出てきています。
 よって業界としては適切なセルフメディケーション、セルフケアから始まる形での健康維持・管理の国民運動を呼びかけたいわけです。

 

世耕――
 是非、そのような社会を目指すべきだと思います。だいたい風邪などで受診したとしても、投薬される薬の多くは市販薬でも賄えたりする場合が多いのではないでしょうか。
 これは個人的なことですが、私はイソジンや胃薬、ビタミン剤のようなものは自分で日頃から常備しており、病院で処方してもらわないようにしています。


要指導医薬品創設に込められた意味


松井――
 世界に目を向けると医療制度は国によって本当に様々な形態がありますが、おおよその国で医薬品の総生産額の20~30%はOTC薬が占めています。日本だけが7~8%程度に留まっているのはセルフメディケーション、OTC薬の活用という観点から何らかの方策を考えていかなければならないと感じます。

 

世耕――

 さらに政府としては、スイッチOTC化も今後もっと積極的に進めたいという方針にあります。医療において安全性が確認された薬は、なるべく薬局などで身近に買えるようにするという仕組みを整えていくことも大事です。
 昨年、薬のネット販売解禁に関わる議論が盛り上がりましたよね。その際、国としては基本的にできる限り100%解禁を目指しはしましたが、どんな薬もネットで売られるような状態にしてしまえばスイッチOTC化の流れを止めてしまいかねません。医療用からOTC薬に移行後、いきなりネット販売がOKとなると流石に専門家の方々も躊躇するでしょうし、スイッチ化のスピードを落としてしまうとの懸念から要指導医薬品というバッファゾーンを作らせて頂いたわけです。
 つまり、スイッチされた直後は一定の規制を図り、そこで3年間様子を見てからネット販売を解禁していくという手法は、スイッチOTC化を促進する意志を反映したものなのです。こうした仕組み作りも伴いながら、ある程度の健康維持については国民自らが対処していく習慣に結びつけていくことが重要だと考えます。


新たな機能性表示食品制度の先に思い描く可能性


松井――
 その意味では食品の機能性の話に戻りますが、やはり国民が自分の健康維持に活用する上でわかりやすいような表現手法が求められると思います。
 例えば欧州などでイチョウ葉エキスはOTC薬として登録されていますが、日本ではそうなっていない。それならばと食品として製品化しようとすると、現在考えられている機能性表示のルールに沿うと「頭」という部位になるのか、あるいは「脳の血流」といったことまで使って良いか。もっとわかりやすく表現するなら「健全な記憶のサポートに」みたいなことが表現できるかというと、部位とは言えないし、どうしたものかといった悩ましい事態に直面してしまいます。
 いずれにせよ、どこまで許されるかで新しい制度を活用する可能性も随分と変わってくることになります。生活者にとってのわかりやすさ、という意味では今まさにこうしたことが議論されており、世耕先生にも色々とご理解を賜りたいと考えています(笑)。

 

世耕――
 どちらかというと私はこの件では推進派であって、このままではがんじがらめで使い勝手が悪い制度になりはしないか、といった危惧を持って心配している立場です(笑)。よって頃合いをみて担当部局から良く話を聞かなければならないとの認識にあります。

 

松井――
 当然ながら症状は書けないとして、青ミカンのブルーヘスペロンは抗ヒスタミン作用とヒスタミン剤の増強作用があるとされている素材ですが、そのような機能をどう表現するか。「過敏な肌に」といった表現ができると随分売りやすいわけなのですが。
 ブラックジンジャー(黒しょうが)も実はプリン体が制御できるような機能が指摘されていますので、痛風が心配される人なんかにはぴったりの素材なのですよね。でも、痛風なんてどう表現すれば良いのかと(笑)。プリン体を抑制するようなデータを取るのは比較的容易ではありますが、ヒスタミンの増強作用といったことになると微妙です。

 

世耕――
 確かにそうしたご苦労はあるでしょうが、医療・医薬との棲み分けを慎重に検討しつつ、国民にとって安全かつ有用で、わかりやすい食品や健康素材の機能の表示が行われる制度設計が目指されるべきですよね。トクホが出来たことで随分と市場は拡大しましたが、さらにこのような制度を整えることにより、食品が持つ様々な可能性を広げられるのではないかと思います。
 米国では非常に大きなサプリメントの市場があり、食品の機能性が有意義に活用されています。まだまだ日本の市場や活用実績は小さいものですので、今回の制度を皮切りとして食品の可能性を広げていくことにより、国民のセルフメディケーション意識を高め、市場としても拡大し、また最終的には食品や素材の作り手である農業・農家の活性化にも繋がれば理想です。


情報を適切に流通させることも業界の役割


松井――
 米国にはナチュラルメディシンデータベースのようなものがあります。そうした情報の体制を日本でも作らなければならないのでは、といったことも我々における今後の課題で、新しい制度への対応の一方で必要な環境を整えなければならない、といったような認識が業界内で高まっているところです。


世耕――

 先ほども申し上げたように、産業界からそのような提案や要望、議論は積極的に展開して頂きたいですね。今後、制度施行までにはガイドライン案などに対するパブコメを経て、説明会やヒアリングを行うといった準備段階が設けられると思います。


松井――
 セルフメディケーションやセルフケアを通じた市場拡大においては、私が属する大衆薬卸協議会をはじめ卸の組織活動などでも非常に苦戦しています。OTC薬の市場は年々縮小しており、歴史的にはアンプル剤を撤収するといった頃から始まって、近年はドリンク剤を中心とした食薬区分の見直しなどに対応しながら、今日までに業務内容は非常に厳しい状況を辿ってきたとの認識にあります。


世耕――
 そもそも医薬品の流通は医療に関わる重要な情報を伴うので、医薬品卸には業界固有の役割があると感じます。副作用情報などを筆頭として、情報の適切な伝達も流通において極めて重要になりますよね。


松井――
 医薬品は安全性の観点から回収などが多いので、確実な流通を担う面での役割が重視されています。一般商品のようにフリーな状態で流通してしまうとトレーサビリティが確保できない。その辺は日本の卸は非常にしっかりしていると自負するところです。


健康・医療分野拡充が国内成長を支える産業に


松井――
 あと、我々の商品もアジアなど海外に出ていきたいという思いが高まっています。日本のサプリメントなどは米国から入ってきたわけですが、日本発のサプリメントはアジア人には向いているはずです。


世耕――
 メイド・イン・ジャパンの品質に対する国際的な信頼は高いですからね。空港や銀座などのDgSはアジアの観光客から非常に人気を集めています。


松井――
 アジア各国は医薬品に関しては独自の政策を進めていますが、食品などは輸入制限みたいなものはほとんどかけておられない。よって一定の評価を得た食品は今後、国際的にも日本の有力な武器になるのではないかと思います。


世耕――
 全くおっしゃるとおりです。いま政府は農産物の輸出実績の倍増を目指していますが、世界の人々から「美味しい」と評価いただいても、やはり果物などの生ものを輸出しようとすると相手国の検疫を通過しなければならないというハードルがあります。商品としてパッケージされたものであればクリアしやすいですし、農産物の輸出を拡大する1つの方法として期待できます。今回の制度はそのようなところも少し意識されています。
 いずれにせよ、安倍内閣では健康・医療戦略を掲げており、健康・医療分野の拡充が日本の成長を支える産業にもなっていくのではないか、との観点から様々な施策や取組みを打ち出しています。食品の機能性表示やスイッチを含めたOTC薬活用の振興などを通じ、国民が健康で安心安全に暮らせる環境を作りながら、一方では産業も刺激していくという政策を引き続きしっかりと推進していきたいと考えています。


松井――
 それは我々としても非常に期待しております。世耕先生には今後とも是非、一層のご活躍をお願いします。今回は有意義なお話をありがとうございました。


薬局新聞 2015年1月1日付