薬剤師の歌 『紙風船』

おかっぱミユキさん(左)と東京都薬剤師会の榎本剛さん(右)
おかっぱミユキさん(左)と東京都薬剤師会の榎本剛さん(右)

 薬を通じた人と人との結び付きを歌にした。

 薬剤師は顔が見えないという声を耳にして久しいなか、東京都薬剤師会のメルマガ企画からスタートした薬剤師の歌「紙風船」は、東京都薬剤師会をはじめ6月上旬現在10地区薬剤師会から推薦をもらいながらリアルタイムで拡がりつつある。

 OTC薬から処方せん調剤、在宅医療までに年齢に応じた薬剤師との関わりが歌詞に込められており、歌詞を通じて患者・生活者に寄り添う薬剤師の背中が垣間見える。

 歌で薬剤師を表現するという異例の取組みへの狙いと今後の展望などについて、発案者である東京都薬剤師会の榎本剛さん(冲永薬局・板橋区)と、作詞・歌手を担当したおかっぱミユキさんに話を聞いた。

 

薬局と患者の結びつきを歌で表現

 

 薬剤師の歌「紙風船」は、薬局店頭で配布していた紙風船をキーアイテムとして、OTC薬の提供から処方せん調剤、そして家族の在宅医療というそれぞれのシーンの中で薬剤師が身近な医療人として寄り添う姿が描かれており、キーワードである「おだいじに」が曲の締めくくりとして用いられている。

 

 そもそも薬剤師の歌にたどり着くまでには、榎本さんが都薬に入会して会員委員会を担当したことに遡る。

 都道府県薬剤師会の会員委員会は、会員を増やすための委員会だ。役割として研修会の充実や医薬品等情報の入手といったスキルアップなどのための内容を企画することが多い。

 そこで榎本さんはさまざまな企画案をあげている中で、榎本さんの旧知を頼って都薬ソングを作成したり、子ども向けの服薬指導の歌などを作成してきたが、いずれも会員委員会で正式採用には至らなかった。

 試行錯誤を繰り返す中で、薬剤師の顔が見えないことへの対応がテーマとなり、薬剤師そのものを歌う方向が固まっていったという。 

 

 一方、歌い手であるおかっぱミユキさんは、2012年4月に当時所属していたバンドが解散。

 フリーの状態であったこともあり、試作品としての薬剤師ソング作成を呼びかけられたものだ。

 榎本さんは作詞するにあたり、「OTC薬」「保険調剤」「在宅医療」「紙風船」というキーワードを盛り込むことを依頼。

 でき上がってきた歌詞を見て驚きを隠せなかった。

「キーワードは頼んだものの、1カ月強でここまで情景のある歌詞が出てくるとは思わなかった」との感想を漏らす。

 

 ミユキさんは、作詞するにあたり、「私自身は花粉症で薬をもらうことはありましたが、あまり薬局に通った記憶は薄かったです。それよりも母ががんを患って静養していたとき、薬剤師の方が薬を自宅まで持ってきてもらったことを覚えていました」と話し、当時の情景を思い出しつつ客観性を持たせながら作詞に投影させていった。

 

“おだいじに”の言葉に込められた薬剤師の言葉の重み

 

 こうして歌詞としての原型は2012年の暮れに完成。

 2013年は音楽的なクオリティ作業に時間を要するなどの準備を経て、2014年に都薬推薦ソングとして採用されるに至った。

 現在はYouTubeで配信するミュージックビデオも制作しており、一過性の動きとして終わらせるつもりはない。

 「将来は薬剤師がカラオケに行った際に歌えるような状況までもっていき、『みんなの歌』で採用されて最終的には紅白歌合戦に出たい」と榎本さんらの鼻息は荒い。

 

 ただ、決して悪ふざけで一連の動きになったものではない。

 榎本さんは歌詞をお願いする際に“おだいじに”という言葉には「もう身寄りが亡くなってしまい、こんな言葉をかけてくれるのは薬剤師さんだけだよ」という高齢の患者さんに漏らされた言葉が離れなかったことも述懐し、薬剤師が何気なく口にした言葉の重さを感じたという。

 薬学生の受入の際は、薬を通じて人を見ることを心がけるよう指導する。

 「病のときに人は薬だけで癒されるものではなく、親しい人からの支えがあるからこそであると思ってます。薬剤師である以上、薬は用いますが人との繋がりは最も大切にしなければならないでしょう」。

 

 この気持ちは歌い手としても意識している。

 ミユキさんは「ライブで歌うと涙ぐむ方もいます。薬剤師の方を通じて人と人との繋がりや触れ合いのぬくもりを思い出してもらっているのかなと思ってました」。

 

 薬剤師の歌がどこまで生活者に届くか。

 これからも声の行く末に注目したい。

 

薬局新聞 2014年6月25日付

 

「紙風船」 作詞・おかっぱミユキ

 

小さい頃 私が熱を出したりすると お母さんにおんぶされて通ったお薬屋さん

具合の悪い私をそっと励ますように お薬と一緒にもらった紙風船

嬉しかった ありがとう あの時言えなかったけど

気づいたよ 優しい気持ち 紙風船の向こう側から

届いたよ そっと笑うあなたがくれた 「おだいじに」

 

大人になった私が久しぶりに来た薬局 昔と変わらない懐かしい香りがした

私のこと覚えてるかな? ずいぶん来なかったけど

気づいてたよ やっぱりもう紙風船はもらえなかったけど(笑)

届いたよ あの頃と同じ笑顔の「おだいじに」

 

小さい頃 私が熱を出したりすると 二人で何度も通ったあの薬局

母が寝込んでから一緒に行けなくなったけれど 今はお薬も届けに来てくれている

嬉しいな ありがとう 心細かったけれど 気づいたよ 優しい気持ち いつものお薬と一緒に

届いたよ そっと笑うあなたがくれた紙風船

 

息を吹きかけてふくらむ紙風船 何か書いてある…

あなたからの「おだいじに」