患者の立場から期待される薬剤師の臨床活動

特定非営利活動法人『ネットワーク医療と人権』 理事 花井十伍氏
特定非営利活動法人『ネットワーク医療と人権』 理事 花井十伍氏

 「臨床における専門家の醍醐味をもっと知って欲しい」。

 薬剤師業務に高まる臨床的視点の必要性や業務姿勢に関し、薬害根絶活動の第一人者として知られる『ネットワーク医療と人権』理事の花井十伍氏はそう訴える。

 昨年来の医薬分業・調剤バッシングや医薬品ネット販売解禁に至る背景で、薬剤師は社会における存在感を改めて見つめ直す局面にある。 その本質的なキーワードに一人ひとりの患者の命に向き合う臨床活動、そして「医療人の宿命」とも表現する専門家の覚悟をあげる花井氏の期待は、まさに医療の最前線に立ち続ける患者の立場に応じた重みがある。

 

(第12回かながわ薬剤師会学術大会 特別講演より 2014年1月15日)

 

◇ ◇ ◇

 

 周知のように花井氏は生後まもなく血友病と診断され、血液製剤の無い時代からクリオプレピシテート製剤、濃縮製剤へといった治療や医薬品の進展を体現する一方、輸入血液製剤によるHIV感染を経ながら患者団体代表の一人として中医協委員などをはじめ薬害根絶、ドラッグラグ解消などで影響力を発揮し続けている。

 

 日常的に生死に直結する薬物治療を受け続ける花井氏でも、薬剤師の存在を意識したのはこの20年余りという。活動を通じた薬剤師観について花井氏は、薬害エイズ問題に絡めて「(メーカーや行政の姿勢のみならず)現場の薬剤師が非加熱製剤の使用を防げる可能性はあった。

 しかし、長い患者生活のなかで薬剤師の重要性を実感したのは、90年代後半に多剤併用抗ウイルス治療が導入されたことでアドヒアランスの重要性が高まって以降」と痛烈に指摘する。

 

 服薬率が95%を切ると治療成功率が半減する、とされる抗ウイルス療法を生涯持続する上で現在では「薬剤師のサポートが不可欠」との認識にある。

 医師が把握できていない服薬の未徹底が治療に悪影響を及ぼす実態を問題視し、HIV治療全体がコンプライアンスからアドヒアランス重視へと大きく動いた1998年のエイズ学会が契機だった。

 

 「医師が処方せんを書いても治療が成功するわけではない、として、ここから薬剤師による服薬支援が重要な位置を占めていく。薬剤師はチーム医療を担うとともに医薬品安全対策の要であって欲しい」。

 

 加えて昨春から医薬品リスク管理計画に基づいて安全性監視活動が強化され、添付文書から審査報告書、インタビューフォーム、緊急安全性情報など「この10年で医薬品の素性を知りうる情報は格段に充実している」と評価しながら、花井氏は膨大な医薬品情報を患者自身や診療に追われる医師が確認し切れるものではなく、「専門家である薬剤師が利用しなければ他に誰も居ない。薬事行政的にはかなりのところまで進んだので、次の局面として現場でそれを如何に活かすかになりつつある」と、むしろ今では薬剤師のチーム医療参画に大きな期待を寄せている。

 

医療のレギュラトリーサイエンス進展に求められる薬剤師の臨床活動

 

 「(調査・監視を要する)医薬品は多くの患者が命をかけて育てる不完全な商品で、その現実と闘う宿命を持つ者が専門家」との指摘は、副作用問題と常に隣り合わせの先端的で限られた薬物治療を重ねてきただけに説得力がある。

 

 「不完全な薬に成果を求められる状況は“無茶ぶり”とも言えるが、患者の立場からすれば『だから専門家なんだ』となる」。

 医薬品ネット販売解禁で注目されたOTC薬流通に関しても当然、同様の考え方だ。

 「良い薬が出たと紹介するCMを見て使うことが自己責任となれば患者に救いがない。スタイリスト付きで洋服を買うようなもので、医薬品は常に専門家が付いているとの期待が大きい」と、宿命的に患者一人ひとりに向き合う専門家の姿勢を臨床に集約する。

 

 薬物治療をめぐる臨床の重要性に絡めて花井氏は、社会との調和・調整に基づく科学的領域のレギュラトリーサイエンスの医療における進展を求めている。

 具体的に医療・医薬品で用いられる臨床研究などの科学的証拠は、過去の症例・事象を集めたデータに基づく帰納的推論として、臨床現場では『この治療をすれば改善するかも知れない』という、一度限りの命の未来に向けて生きている患者それぞれの可能性を確認しながら進める演繹(えんえき)的推論と指摘。

 「この似ているようで異なるものが出会う場が臨床で、確定した最善はなく、患者との協働によって最善を追求する信頼関係の構築こそ、専門家にとっての臨床の醍醐味」と花井氏は呼びかける。

 

 「実際どうかは別として、医師は患者をよくわかっているとの自負が専門家としての自信の源であることは間違いない。臨床的視点を持つことで真に患者に寄り添い、命に向き合える薬剤師が増えることで、おのずと多くの国民は薬剤師が医療に必要不可欠な専門家であると知ることになると考える」。

 

薬局新聞 2014年1月22日付