【薬局レポート】地球堂薬局・田代健氏(埼玉県志木市)

 埼玉県志木市で地球堂薬局を営む田代健氏は、このほど服薬に伴う患者の悩み・有害事象の共有を図るiPhoneアプリ「Prairiedog」(プレーリードッグ)を公開した。

 

 参画する保険薬局経営者連合会(薬経連)の活動方針に沿って自ら開発したもので、医薬分業への風当たりが強まる情勢に対し、「薬剤師が患者から得た生の情報を発信・共有し合い、医療にフィードバックすることによる可能性」を呼びかけるのが狙いだ。 

 医療での価値を見出す意図を持って患者の訴えに耳を傾ける姿勢を促す点で、医薬品ネット販売解禁に伴う今後の現場のあり方にも通じる背景を田代氏に聞いた。

薬剤師の情報発信に一歩踏み出すiPhoneアプリ開発

 

 田代氏が開発したiPhoneアプリは、服薬に伴う悩みやトラブルなどの事象を患者から相談された場合、使用薬剤とともにその内容を報告してユーザー間で共有するソフト(フリーウエア)だ。

 事象は患者のヒアリングに応じて深刻度を5段階評価し、医薬品別や症状別に検索できるデータベースとして蓄積。

 

 現場対応や医療へのフィードバックといった応用を模索するもので、名称は群れで警戒し合って危機に備える習性を持つプレーリードッグの集団行動にちなんでいる。

 

 現時点では単純に報告のみに特化しているが、「将来的には事象の発生率や処方内容で細かな検証が行える形を検討したり、薬剤の満足度といった指標が得られるような展開も目指したい」と田代氏は説明する。

 

 自身が副会長を務める薬経連では、以前から医薬分業下で薬局の機能発揮を強める手段としてWEB上のクラウドで薬歴情報などの共有を図り、医療の質的向上に結びつける仕組み作りをビジョンに掲げている。

 

 「近年の分業バッシングで薬剤服用歴管理指導に疑問が寄せられていますが、薬歴などの情報は個々に蓄積しているだけで医療の流れのなかで活用という“出口”がない。薬歴に残して終わりで役立っていないのなら、患者から『話す価値がない』と言われても仕方なく、医療の質的向上へと発展させられないと点数を貰っている意味はないと思います」と田代氏。

 東日本大震災で処方情報やお薬手帳の重要性が再評価されたように、薬剤師が持つ情報を医療全体で効果的に活用する意義は高まっており、分業バッシングも含めて「こうした活動に乗り出す機は熟してきた」と強調する。

 

 有害事象に着目したのは、「薬剤師にとって優先順位が最も高い」からという。そもそも情報共有への試みはジェネリック薬の品質などに関して起こってきているが、まだ全体的な運動として確立されてはいない。

 

 「薬剤師は情報を取るのに長けていても自ら発信することには消極的で、『出してくれ』となるとなかなか盛り上がらない。そこで最も敏感な副作用に関わることなら、ということで発信の内容や方法にしてもハードルを下げることを優先し、まずは薬剤師同士が現場で得た情報をダイレクトに発信し合う行動の一歩を踏み出したいとの思いを込めました」。

 

点数ではなく患者に向いた業務姿勢の転換も刺激

事象報告では発疹などの画像情報も添付できるようになっている。アプリはiTunesサイトを通じて無償公開中。
事象報告では発疹などの画像情報も添付できるようになっている。アプリはiTunesサイトを通じて無償公開中。

 

 患者の悩みを意識的に収集するとの構図では、「薬局・薬剤師とのコミュニケーションに意味がある、ということを患者・社会に実感してもらう意味でも試金石の試みにしたい」とも田代氏は語る。

 

 「例えば患者から『痒みが出た』などと相談された場合、反射的に医師へ振ってしまう薬剤師が多いのが実情です。判断は下さなくても訴えを詳しく聞き、『今後の医療に貴重な情報なので登録させて下さい』との前向きな応対を行えば信頼や関係性が増し、『何かあれば相談してみよう』『こんなことも聞いてみよう』となるのではないでしょうか」。

 データベースの問題で薬価収載品に限定したアプリとしたが、「本来は身近なOTC薬でやりたかった」といい、ネット販売解禁に揺れる時期に打ち出す意義もあったと考えている。

 「ネットの流れ自体は防ぎようがなく、新しい医薬品の販売形態が入ってくることで『それ以上か以下か』の線引きがなされるとして、ブレーキをかけるのではなく如何にネット以上の価値を提供できるかを考えた時、今回のようなツールや機能が1つの手段になるでしょう」。

 

 調剤が主体となっている昨今の薬局では、身近な相談窓口との位置づけを得ることへの努力が求められる。

 「その根本にあるのが調剤報酬で、実質的に患者よりも算定要件を見てきた傾向への反省は必要です。今後、点数体系が簡素化されて患者に向かい合わざるを得ない状況が来るとして、単価を上げるのではなく、信頼や支持で患者を囲い込む取り組みの時代になると考えています」。

 

 アプリは公表後数カ月で200余りのダウンロード実績にあるが、現バージョンでは医薬品データベースの導入に長時間を要すなど初期設定に課題を残しており、コンスタントに報告が寄せられるような展開はこれから。「薬局経営者が勉強しながら組んだソフトの完成度にもっとお叱りの声があると覚悟していましたが、そうした反応すら薄い点で、まだ道のりは遠いのかなというのが率直な感触です」としながら、田代氏はアプリの使い勝手・完成度向上とともに、7月下旬に予定する薬経連のフォーラムなどでアピールを図っていく構えにある。

 

薬局新聞 2013年7月10日付